企業の移動を脱炭素化する:Scope 1のフリート排出量削減の実践法

企業活動に伴う温室効果ガス削減が求められる中で、社用車や物流車両といったフリート由来の排出量は、Scope1対策の中でも見落とされがちな領域です。しかし、移動や輸送は日常業務に直結しているからこそ、改善余地も大きく、取り組み次第では排出量削減とコスト最適化を同時に実現できます。特に複数台の車両を保有する企業にとって、フリート排出量をどう捉え、どう管理するかは、今後の脱炭素経営を左右する重要なテーマとなります。

Scope 1におけるフリート排出量の位置づけ

Scope1とは、企業が自ら所有または管理する設備や車両から直接排出される温室効果ガスを指し、社用車や物流車両の燃料燃焼による排出は、その中でも代表的な項目です。フリート排出量は、工場設備のように固定された排出源とは異なり、走行距離や運転状況、用途によって排出量が大きく変動するという特徴があります。そのため、正確に把握しないままでは、Scope1全体の排出構造を正しく理解することができません。多くの企業では、フリート排出量が個々の部署や拠点に分散して管理されており、燃料使用量や走行実績が十分に集約されていないケースも見受けられます。この状態では、Scope1排出量の算定はできても、どこに削減余地があるのかを判断するのは難しくなります。フリート排出量をScope1対策の中で明確に位置づけるためには、まず社用車や物流車両が企業全体の排出量に占める割合を把握し、その重要性を社内で共有することが欠かせません。特に営業車両や配送車両を多く保有する企業では、フリートがScope1排出量の中で無視できない比率を占めることも珍しくありません。こうした認識を持つことで、フリート対策は単なる車両管理ではなく、Scope1削減を実現するための戦略的なテーマとして扱われるようになります。

社用車の燃料転換とEV導入の効果

Scope1排出量の中でもフリート由来の排出を大きく左右する施策が、社用車の燃料転換とEV導入です。社用車は日常的に稼働するため、車両一台あたりの排出量は小さく見えても、保有台数や走行距離が積み重なることで、Scope1全体に与える影響は決して小さくありません。燃料転換は、既存の車両運用を大きく変えずにScope1排出量を抑えられる点が特徴であり、比較的短期間で削減効果を実感しやすい取り組みです。一方で、EV導入は走行時に直接排出が発生しないため、Scope1排出量を構造的に削減できる手段として注目されています。特に営業車や構内移動が中心の車両など、走行距離や使用条件が限定されている場合には、EVとの相性が良く、導入効果を定量的に示しやすい傾向があります。社用車の燃料転換やEV導入を検討する際に重要なのは、すべての車両を一律に置き換えるのではなく、用途や走行特性に応じて段階的に進める視点です。これにより、業務への影響を抑えながらScope1削減を進めることが可能になります。また、フリートにおける燃料転換やEV導入は、単なる環境対策にとどまらず、燃料費の変動リスク低減や車両管理の効率化といった経営面でのメリットも期待できます。

運転データ分析による効率化とコスト削減

社用車や物流車両のScope1排出量を着実に削減していくためには、車両の種類や燃料を見直すだけでなく、日々の運転そのものに目を向けることが重要です。フリート排出量は走行距離や燃費性能だけでなく、運転方法や稼働状況によっても大きく左右されるため、運転データを分析することで削減余地が明確になります。走行時間やアイドリングの状況、急加速や急減速の頻度などを把握することで、燃料消費が増加している要因を特定でき、結果としてScope1排出量の抑制につながります。こうした運転データ分析は、排出量削減だけでなく、燃料コストや車両維持費の低減にも直結する点が特徴です。無駄な走行や非効率な運転が減ることで、燃料使用量が抑えられ、フリート全体の運用コストが改善されます。また、データに基づく改善は、感覚や経験に頼る運転指導よりも現場の納得感を得やすく、継続的な取り組みとして定着しやすいという利点があります。運転データを活用する際には、単に数値を収集するだけでなく、どの行動がScope1排出量に影響しているのかを分かりやすく整理し、改善につなげる視点が欠かせません。こうした分析を通じて、社用車や物流車両の使い方そのものを最適化することで、燃料転換やEV導入といった施策の効果をさらに高めることができます。

物流・営業車両の再編で排出を減らす方法

Scope1排出量をフリート全体で抑えていくためには、個々の車両性能や運転改善だけでなく、物流や営業車両の配置や使い方そのものを見直す視点が重要になります。多くの企業では、拠点ごとに車両が固定的に割り当てられていたり、過去の業務量を前提に保有台数が維持されていたりするケースが見られます。このような運用は業務の安定性を確保する一方で、稼働率の低い車両や非効率な移動を生み、結果としてScope1排出量を押し上げる要因となります。物流・営業車両の再編とは、車両台数や配置、用途の重なりを整理し、必要な場所に必要な車両を最適に配置する取り組みです。走行距離や利用頻度を把握した上で、業務エリアの見直しやルートの最適化を行うことで、移動そのものを減らし、燃料消費量を抑えることができます。また、車両の用途を明確にすることで、過剰な性能を持つ車両の使用を避け、業務内容に適した車両選定につなげることも可能になります。こうした再編は、設備投資を伴わずにScope1排出量削減を進められる点が特徴であり、比較的短期間で効果を確認しやすい施策です。さらに、物流や営業の動線が整理されることで、業務効率や移動時間の短縮といった副次的な効果も期待できます。このように、物流・営業車両の再編は、運転データ分析で得られた知見を実際の運用に反映させる段階であり、次に述べる社内体制づくりと組み合わせることで、Scope1排出量削減を持続的な取り組みへと発展させることができます。

脱炭素モビリティへの移行に必要な社内体制

社用車や物流車両の脱炭素化を一過性の施策で終わらせず、Scope1排出量削減として定着させるためには、技術や車両の選定と同じくらい社内体制の整備が重要になります。フリートの脱炭素は、環境担当者だけで完結する取り組みではなく、総務や物流、営業、経営層など複数の部門が関わる横断的なテーマです。そのため、役割分担が曖昧なままでは、車両更新の判断基準や運用ルールが統一されず、Scope1削減の効果も限定的になってしまいます。まず必要なのは、フリートに関する意思決定の軸を明確にし、排出量削減を重視する方針を社内で共有することです。これにより、車両更新や運用変更の際に、コストや利便性だけでなく、Scope1排出量への影響を考慮した判断が可能になります。また、現場の理解と協力を得ることも欠かせません。運転者や管理担当者が脱炭素モビリティの目的や効果を理解していなければ、新しい運用は定着しにくくなります。定期的な情報共有や振り返りを通じて、フリート排出量の変化を可視化し、取り組みの成果を共有することで、社内の意識を揃えることができます。このような体制が整うことで、燃料転換やEV導入、運用再編といった施策が個別に進むのではなく、Scope1排出量削減という共通目標のもとで連動し始めます。脱炭素モビリティへの移行を成功させる鍵は、車両や技術そのものよりも、それを支える社内の仕組みづくりにあると言えるでしょう。

まとめ

フリート脱炭素を経営課題の一つとして位置づけ、排出量の可視化と改善を繰り返すことで、Scope1排出量削減は中長期的な競争力強化にもつながります。まずは自社のフリート排出量を正しく把握し、実行可能な施策から段階的に取り組むことが、持続的な脱炭素モビリティへの第一歩となるでしょう。